はじめに:タイヤ選びは「性格選び」
バイクのタイヤって、「速さ」か「長持ち」かの二択を迫ってくる、ちょっと面倒くさい恋人みたいなところがありますよね。サーキットを攻めるわけじゃない、でもワインディングではちゃんと曲がりたい。通勤にも使うからライフも大事、雨の日だって乗る――そんな欲張りなライダーが増えている今、「ちょうどいい」を本気で狙ってきたのがIRCのツーリングラジアル、RMC810です。 街乗りから高速、峠までを一通りカバーしつつ、ドライもウェットもバランスよくこなすことを目指したこのタイヤは、「マイルドツーリングラジアル」というコンセプトで開発されています。極端なキャラではなく、日常と遊びの中間を狙ったこの立ち位置が、今の時代のライダー像と妙にリンクしているのが面白いところです。

メリット3つ
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オールラウンド性能が高く、使いどころが広い RMC810は、街乗りからツーリング、ワインディングまでを一通りカバーすることを前提に作られたツーリングラジアルです。ドライ路面でのグリップはもちろん、ウェットでも高い排水性と安定したグリップを狙った設計になっており、突然の雨でも不安を抑えた走行がしやすい構造になっています。「普段使いにちょうどいいキャラクター」と評されるのも、この守備範囲の広さゆえでしょう。
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マイルドで素直なハンドリングと乗り心地 極太ナイロンコードとアラミドコードを組み合わせた構造により、剛性感を保ちつつもしなやかな乗り心地を実現しているのが特徴です。プロファイルも穏やかに設計されており、直進からフルバンクまで挙動変化が少なく、クイックすぎる動きが苦手なライダーにも扱いやすい性格になっています。実際のインプレッションでも、「乗り心地が良い」「グリップ感が自然」といった声が見られ、タイヤ交換だけでサスペンションを上質にしたような印象を受けるという評価もあります。
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グリップとライフのバランスを狙った設計 一般的に、耐摩耗性を上げるとグリップが落ち、グリップを上げるとライフが犠牲になりがちですが、RMC810はその両立を目指して開発されています。シリカ配合コンパウンドにより、温度の立ち上がりが速く、初期走行から安定したグリップを発揮しつつ、ツーリング〜ワインディングまでをカバーするバランス型の性能を持たせています。ライフに関しても「平均的であればとても良いタイヤ」という評価があり、極端な短命さは感じさせないポジションに収まっているようです。
デメリット3つ
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過度なスポーツ走行には物足りない可能性 コンセプトが「マイルドツーリングラジアル」である以上、サーキット走行や、ハイグリップタイヤ前提のような攻めたスポーツライディングを求めると、どうしても物足りなさを感じる場面が出てきます。スポーツタイヤのような鋭い切り返しや、限界付近での粘りを期待すると、「そこまでのキャラじゃない」という性格が顔を出すタイヤです。
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ライフは「超ロング」ではなく、あくまでバランス型 グリップとライフの両立を狙った結果、ライフは「極端に長い」方向ではなく、「平均的〜そこそこ」のあたりに落ち着いている印象があります。ロングライフを最優先するツーリングタイヤと比べると、グリップ寄りのバランスであるため、「とにかく減らないタイヤが欲しい」というニーズにはやや合わない可能性があります。
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キャラクターが“尖っていない”ことをどう捉えるか オールラウンドでマイルドな性格は、多くのライダーにとって安心材料ですが、「強烈な個性」や「このタイヤじゃなきゃダメ」という決定打を求める人には、逆に印象が薄く感じられるかもしれません。スポーツ寄りでもなく、ガチツアラーでもなく、その中間を狙った結果、「ちょうどいいけど、強烈な驚きはない」という評価につながる可能性があります。
私見:RMC810という「大人の中庸タイヤ」の面白さ
RMC810を眺めていると、「タイヤ界の中庸主義者」という言葉が浮かびます。極端な方向に振らず、グリップもライフも、ドライもウェットも、街乗りもワインディングも――全部をそこそこ高いレベルでまとめてくる。その姿勢は、若さ全開で「とにかく攻めたい!」というライダーよりも、「無茶はしないけど、ちゃんと楽しみたい」という大人のライダー像にしっくりきます。
構造面でも、極太ナイロンコード+アラミドコード、0度ベルト構造、シリカ配合コンパウンド、穏やかなプロファイルと、スペックだけ見るとかなり真面目に作り込まれています。それでいて、挙動は「素直」「マイルド」「扱いやすい」という方向に振ってあるので、乗り手に変な緊張を強いないのがポイントです。タイヤ交換だけで「サス変えたみたいに上質になった」と感じるのは、剛性としなやかさのバランスがうまく取れている証拠でしょう。
面白いのは、このタイヤが狙っている「ちょうど良さ」が、現代のライダーの欲張りな要求とかなり重なっているところです。サーキット専用じゃない、でも峠は楽しみたい。通勤にも使うし、雨の日も乗る。財布もライフも気になるけど、タイヤに「安さだけ」は求めたくない。RMC810は、そんな「全部そこそこ欲しい」というワガママに対して、「じゃあ、この辺でどう?」と差し出される、現実的な回答のひとつになっているように感じます。
ただし、「中庸」であることは、同時に「決め手に欠ける」と受け取られるリスクも抱えています。ハイグリップタイヤのような「うわ、これスゴい!」という劇的な変化は少ないかもしれませんし、超ロングライフタイヤのような「全然減らない!」という驚きも薄いでしょう。でも、それって実は、日常で一番付き合いやすい性格だったりします。派手さはないけれど、気づけば一番長く一緒に走っている――そういうタイプのタイヤです。
そして何より、このタイヤの一番の魅力は、「自分の走り方をちょっとだけ冷静に見つめ直させてくる」ところかもしれません。自分は本当にハイグリップが必要な走りをしているのか? ロングライフだけを追い求めて楽しいのか? その中間で、気持ちよく走れるところに落ち着くのが、一番幸せなんじゃないか? 気づいたら、「タイヤ選びの悩み」そのものを、少しだけ丸くしてくれている。RMC810って、そういう意味では、ライダーの心の角も一緒に削ってくる、なかなかしたたかなタイヤです。
まとめ:派手さより「ちょうどいい」を選ぶなら
RMC810は、一言でいえば「大人のツーリングラジアル」です。ドライもウェットもそつなくこなし、街乗りからツーリング、ワインディングまでを気持ちよく走らせてくれる、オールラウンド寄りの性格を持っています。マイルドで素直なハンドリング、しなやかな乗り心地、グリップとライフのバランスの良さは、「タイヤで尖りたくないけど、ちゃんと楽しみたい」というライダーにとって、かなり現実的で魅力的な選択肢になるはずです。
一方で、「限界まで攻めたい」「とにかく減らないタイヤがいい」といった、極端なニーズにはハマりにくいタイヤでもあります。だからこそ、自分のバイクとの付き合い方や、走り方を少し俯瞰して見たときに、「あ、RMC810くらいがちょうどいいかも」と感じたなら、その時点でこのタイヤとは相性がいいのかもしれません。
派手な一目惚れではなく、じわじわ効いてくる相性の良さ。RMC810は、そんな「長く付き合えるタイプ」のタイヤとして、選択肢の中に置いておく価値がある一本だと思います。